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創業192年。酒造りの原点をつなぎ、新たな焼酎をつくり続ける。姫野建夫さん
年齢72歳姫泉酒造7代目
山道をぐるぐると車で降り続け、渓谷の先に現れる町の中心地。おおらかにきらめく五ヶ瀬川の両脇には、住宅、商店、宿などが並びます。日之影の“暮らし”を体感するならば立ち寄ってほしいエリア。そんなエリアの入り口付近に構えるのが、姫泉酒造。堂々たる老舗の佇まいに、思わず建物を見上げ…それもそのはず、始まりは天保二年(1831年)、長い長い歴史を刻んできた酒造なのです。
本格焼酎の年間出荷量が全国一位という焼酎の里・宮崎県。そんな土地で、着実に時間をかけてつくり上げている焼酎はどんな場所でつくられているのだろう。扉を開くと、7代目の姫野建夫さんが笑顔で迎えてくれました。
純日之影産の焼酎づくりは、
町が元気でいるために。
「うちは、創業時から今もまだ仕込みから瓶詰めのラベル貼りまで、手作業でやっているんですよ」という姫野さんの言葉の通り、聞こえてくるのは機械音ではなくて、ものづくりの現場の自然な環境音です。年季の入ったドラムやタンク、空気に染み込んだようにただようお酒の香り。
「うちの焼酎の味の特徴は、蒸留した酒をフィルターを通さずに無濾過で仕上げ、旨味を残した味です。キレイな飲み口の焼酎は大手の酒造さんがつくっているので、うちならではの味の特徴をださないといけないと思っています。
芋焼酎づくりは、まず米を蒸して冷やして種麹をかけて、麹をつくるところから始まります。そこに水と酵母と芋を加えるのですが、芋は米の5倍の量を仕込みます。今日の仕込みでは、麹が300kgなので、芋は1500kgですね。そうすると、麹と芋をまぜると、麹が芋を食べるんです。食べる時に“糖化”という現象が起きて、アルコールが発生する。あ、この芋食べてみますか?」
蒸し終わり、これから仕込むという芋の味見をさせてもらうことに。「焼酎の芋って味気なさそうだな」と思い、一口食べてみると…普段食べるお芋と変わらない味にびっくり!ほくほくとして、甘みもあるではないですか。
「うまいですか?(笑)この芋は、日之影の深角集落で収穫した、“宮崎紅”という品種です。ちょうど今、芋も米もすべて日之影産の作物でつくる〈渓谷の光〉という焼酎を仕込んでるんです」
姫泉酒造は、独自の商品を数多く製造しながら、地元の農家さんと地元で育てた芋で焼酎をつくるために、2018年に町民とともに「ひのかげ焼酎プロジェクト」というチーム発足しました。芋づくりのもうひとつの目的、増え続ける耕作放棄地をどうにかしたいという思いとともに、地元産の素材のみでつくる“純日之影産”の本格芋焼酎をつくっていこうと、町役場とも共に挑戦を続けているのです。
「農家さんは老齢化して、耕作放棄地は増えていく一方。だから、その土地を農家さんと協力して活用して、芋をつくってもらえたら、うちの蔵で焼酎がつくれる。この町の経済を守って、町が元気でいられるために、できることをしたいんです。芋農家さんの経験や技術があがれば、どんどん美味しい焼酎がつくれるようになる。今は、宮崎県限定で販売しているので、県外から買いに来てくれるファンの方もいますよ。そうすれば、この焼酎をきっかけに、この土地に訪れてくれて、飲食店に寄ったりしてくれますよね。それが嬉しくて」
本来の酒造りの姿と、
本当のおいしさを守るために。
193年目へと伝統をつなぐ酒造は、どんな未来をつくりたいと思っているのでしょうか。
「うちは県北で一番古い酒造です。しっかり次の世代に残していきたいという気持ちが強いですね。酒造りは、手作業でとにかく丁寧に。どういう状態でつくる焼酎が美味しいかというと、あの状態なんです」
その先にあったのは、長年共に働く地元のスタッフが手作業で芋を運ぶ光景。これが姫泉酒造にとっては日常の光景です。
「大手の酒造さんの製造方法は機械化しています。芋を加える工程も、水を加えて大きなホースを使って仕込んでいるところがほとんど。でも私は、自分たちのやり方が本来の酒造りの姿だと思っているし、この味を守るためにこのつくり方も守っていきたい。
あと、芋はすごくたくさん品種があるんですよね。だから新しい芋や、めずらしい芋の品種で焼酎を作ってみたいっちゅうのはあるんです。香りも味もまったく変わりますので。以前は焼酎用の芋というと〈黄金千貫〉という品種がほとんどでしたが、宮崎県は割と早くからさまざまな品種の芋で焼酎をつくって、芋焼酎の味を広げてきました。だから、焼酎の産地としてトップでいられるんだと思っています。これまでよりもっと芋農家さんと協力して、つくっていきたいですね」
御歳72才。焼酎づくりへの情熱と、地元の暮らしを守っていこうとする熱意がふつふつと沸き立つ姫野さんに、姫泉酒蔵の焼酎はどんな食べ物と合わせるのがおすすめか聞いてみました。
「私は肉食なのでね、お肉料理は何でも合いますよ(笑)。焼き鳥はいいですねえ。焼酎って食べ物の油を流してくれるような飲み心地なので、さまざまな食べ物との組み合わせが良いお酒なんですよ」
姫泉酒造
宮崎県西臼杵郡日之影町大字岩井川3380番地1
Web https://www.himeizumi.co.jp/index.html
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