林業でまちの
未来を拓く。
抜屋匠さん年齢29歳
林業

中山間地だからこそ
見出せる希望がある

日之影のまちは、その面積の90%以上を山林が占める。それは、まちのほとんどと言っても過言ではないだろう。かつての日本だったら、そういう土地は時代から置いていかれた、大いなる田舎を意味したかもしれない。

しかし、持続可能な開発目標(=SDGs)が謳われる時代となった今、その意味合いは大きく変わった。豊かな山林は、時代から取り残された場所なのではない。時代の欲望にまみれずに済んだ貴重な場所であり、森や水の恩恵が守られた場所であり、自然環境が失われることなく豊かであり続けている場所であり、それはつまり、時代の最先端になった場所とも言える。

家業である林業を継ぐ若き林家がいる。抜屋匠さん。日之影の林業に希望を見出しているひと。このまちの豊かな山の奥に、大きな未来を描こうと考えている。彼は、日之影に戻ってきて働くようになる前、林業の基礎を学んだ京都で目にしたものがあった。それは、森の木々が、枝葉も根っこもすべて、木質バイオマス燃料として、つまり再生可能エネルギーとして活用されてゆく様。そしてそれは、地域経済が豊かになっていくシナリオに繋がっていた。

長い年月をかけて育った
山の木々こそ地域の宝

抜屋匠さんの仕事の現場は、山のなかにある。人工的に植えられたヒノキの木を伐るところを見せてくれた。チェーンソーがうなりをあげ、木の根本へと切り込まれていった。ヒノキは、倒れていった。木が倒れた瞬間、森の地面に振動が走った。

何十年もかけて育ってきた尊厳ある存在を相手にする仕事である。危険も伴う仕事でもある。静寂のなかに緊張感が走っている。

抜屋さんは言う。「山は本来、宝物なんです。昔の人は、苗を背負って山奥にまで入り、植林していました。それは未来の子孫のためにやってくれていたことなんです。何十年先に生きる人たちのために祖先が用意してくれた風景の恩恵をぼくたちは受けているんです」。

与えられた恩恵を
次の時代へと繋いでゆく

先祖が未来の私たちのために植えてくれた宝であると気づいてから見てみると、いつもの山の風景は、違ったものになる。日之影は、宝に溢れているエリアに見えてくるはずだ。そしてそれは、たぶん、正しい見え方だろう。

まちの持続可能性をわざわざ考えるまでもなく、ここに豊富にある山々の木々は、未来の子孫までに恩恵があるようにと、100年後の未来を見据えた長期的な目線で生み出された風景だ。先人たちのそうした知恵と恩恵を受けて、今の私たちは生きている。

山林は、現在の宝であり、未来に繋げる宝である。
抜屋さんは日之影の未来をつくる仕事を、今日も続けている。

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