山の向こうに
実るは笑顔。
工藤晃一郎さん年齢79歳
柚子農家

山の斜面で栽培される
可愛らしい柚子たち

見立地区仲村という集落へ向かい、うねうねとした山道を行った先にたどり着いた山の斜面に、工藤さんの柚子畑は広がっている。標高400メートルのその場所に、400本近い柚子の木が実をつけている。黄色い実が風景をかわいらしく彩る。降り注ぐ光とそよぐ風を肌で感じる。なんて気持ちのいい場所だろう。

畑を歩くと靴底に土の柔らかさを感じる。丁寧に刈られた草が肥料となり土を柔らかくしている。79歳の工藤さんは、こまめに草を刈る。山の斜面での草刈りはかなりの重労働。でも、畑が荒れれば収穫作業も困難になるから、工藤さんはやっぱりこまめに草刈りする。

「畑の管理は本当に大変」と語る工藤さんの顔は優しい。若木をシカに荒らされないようにつくった柵、まっすぐに伸びる習性のある柚子の枝を横へ広げてやる工夫、豊かに実った柚子、綺麗に整頓された作業場。至るところに工藤さんの丁寧な仕事ぶりの痕跡がそこにある。

おいしい産地・日之影の
柚子のいろんな楽しみ方

今では日之影町は宮崎県内有数の柚子の産地として知られるが、日之影における柚子栽培の歴史は決して古いものではなく、1960年頃からようやくはじまったと言われている。工藤さんが柚子栽培をはじめたのも、40年ほど前からだという。

「桃栗三年、柿八年、梅はすいすい十二年、柚子の大馬鹿十八年」などと言われるそうだ。実をつけるまでに時間がかる作物であるため、柚子を栽培する場合には種子から育てるのではなく、カラタチの木に接木することで、数年で収穫できるようになる。管理のポイントとなるのは、剪定と日当たりの確保、そして収穫しやすいように枝を誘引することだ。

工藤さんは言う。「酸味が強く、香りがあり。種子は化粧水にも使われて、捨てるところがないのが柚子のいいところです。また、他の柑橘類に比べると、病気への耐久性があるので、消毒の必要がないため、農薬を使わずに育てることが比較的容易だというも柚子栽培のメリットでしょうね」

工藤さんの仕事ぶりが
日之影の美しい風景をつくっている

工藤さんの畑は、おいしい柚子を生む。けれど、それだけではない。素晴らしく美しく感動的な風景をつくりだしている。40年間もの歳月をかけて、丁寧に柚子栽培と向き合ってきた工藤さんの仕事ぶりが積み重ねられて、見事なまでに気持ちよい風景を生み出している。

山の斜面に注ぐ太陽の陽射し。山の斜面に生じる気温の寒暖差。山の斜面を流れる清冽な川の水。自然条件を活かし、斜面をひらいて畑とし、斜面で働き収穫してきたことが、そのまま風景として表現されている。一朝一夕にはできない、どこの誰にも真似されることのない、歴史と知恵が刻まれたこの山の斜面は、日之影の素晴らしさそのものではないだろうか。

工藤さんが愛情を注いで来たこの柚子畑の風景はこのまちの宝だ。たくさんのひとに、この風景を、見てもらいたい。

住所 日之影町大字見立2438

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